法人化するなら株式会社?合同会社?

寺島司法書士事務所 司法書士 寺島優子

法人化のメリット

個人事業から法人成りするとき、もしくは事業開始と同時に法人化するとき、そこには個人事業と違う、どのようなメリットがあるのでしょうか?

  • 法人名義での契約締結、不動産登記が可能となる
  • 社会的信用・信頼感(融資が受けやすくなる、人材募集や営業活動がしやすくなる)
  • 債権者に対する責任は、出資額の範囲内(有限責任)
  • 個人の死亡に左右されずに事業を継続できる(法人化すれば社長が代わるだけ。社長が亡くなっても、会社の財産は社長の子どもに相続されない)
  • 個人事業であれば、個人の人格で事業を判断されるが、法人であれば財産の価値で判断される
  • 税務上のメリット(個人事業への所得税は累進課税だが、法人税は一律)
有限責任
法人が借金を返せない時、出資した限度でのみ責任を負う。
累進課税
所得が大きくなるにしたがって税率が大きくなる。法人だと法人税が適用され、年間の所得がある程度の規模に達するなら法人にした方が節税になる。

法人化のデメリット

デメリットは次のとおりです。

  • 設立時の費用(最低でも、株式会社は登録免許税15万円+定款認証代5万円強、合同は登録免許税6万円)
  • 設立までに要する時間(公証人の認証、登記)

株式会社と合同会社 経営する主体の違い

株式会社の「役員」とは、取締役・会計参与・監査役のことを言います。

取締役
会社の目的を実現するために、あらゆる経営上の舵取りをする人。必ず置く必要がある。もともと株式会社と言えば大きな会社を想定していたが、現在は、取締役兼株主1人の会社など、小さな会社の実態に合わせた株式会社を作れるようになった。
会計参与
取締役と一緒に会計書類を作る人。税理士がなるが、必ずしも置く必要はない。会計参与を置くメリットは、単なる顧問税理士と違い、役員としての責任を負って会計書類を作成するので、偽りのない書類がつくられるという信用を、外部の者に与える点。
監査役
取締役が法律に違反したり、使い込みをしないよう見張る。中小企業では、組織形態によっては、必ずしも置く必要はない。

株式会社に於いて、これらの役員は株主総会で選ばれます。取締役の中から更に代表取締役を選ぶこともできます。役員は会社の経営に責任を持つ人です。その役目に対し、会社から報酬が支払われます。

合同会社の場合

合同会社は出資者自らが経営にあたるため、出資した者が社員となります。社員の中から、業務執行社員を定めたり、業務執行社員の中から更に、代表社員を定めることができます。株主という外部の者に、経営に口出しされる心配のない、小規模家族経営向きの会社形態と言えます。

合同会社とは(株式会社との違い)

平成18年から創設された新会社類型で、かつての有限会社に近い仕組みと言えます(現在、有限会社の新規設立はできません)。
社員は全て、有限責任です。
株式会社と違い、出資者と経営者が分かれていませんから、社員間で会社運営について決定できます。個人事業主として、今まで一人で事業内容を決定してきた方にとっては、株式会社よりも合同会社の方が迅速に物事を決めることができて、しっくりくるのではないかと思います。
社員の中から業務を執行する社員を決めることができ、業務執行社員を決めた場合には、業務執行社員のみが会社の業務を執行します。業務執行社員でない社員は、登記簿には載りません。
業務執行社員の中から、更に、会社を代表する社員を決めることもできます。
社員の発言権や会社の利益分配方法などについて、定款で自由に設計可能です(例 多額の出資をする社員と経営ノウハウのある社員とで利益分配は平等、など)。
社員が持分を譲渡して社員から抜けたいときは、他の社員全員の承諾を要します。これによって、株式会社と比べて家族経営を安全に維持できます。
社員が死亡すると、原則として社員の地位は相続人に相続されないため、意見の合わない相続人に会社経営を脅かされることがありません。
社員総会、取締役(会)、理事(会)、監査役、理事、会計監査人といった法定の機関の設置が不要です(株式会社と比べ、社員がいればよく、機関設計が簡易)。業務執行の決定は社員の過半数で足りますので、迅速な意思決定、機動的な業務執行が可能です。
株式会社のような決算公告義務がありません。株式会社は経営の情報を公開することで、不特定多数の株主から資金を集める形態なのに対して、合同会社は社員個人の信用を元に取引をします。逆に、合同会社は第三者から広く資金調達を行うことには不向きです。合同会社では決算書の公開義務はないけれども、信頼性アピールの為に、任意で決算書を公開しても構いません。
社員に任期がありません。株式会社のように、定期的な役員変更登記をする必要がありませんので、設立後の費用が抑えられます。
合同会社を将来、株式会社へ組織変更することは可能です。
設立時に、定款を作成しても公証人の定款認証が不要です。
設立登記の登録免許税は6万円と、株式会社より安いです。

株式会社とは

出資者(株主)と経営者(役員)が分離した組織形態です。
株式を発行すれば資金調達ができる仕組みです(募集株式の発行)。
出資者が有限責任です(株式の引き受け価額を限度として責任を負います)。
会社支配力や利益分配は出資額に応じます(出資者は株主となり、株主総会を通じて会社経営を監視します)。
株式の譲渡には、会社の乗っ取りを防ぐために、制限規定を設けることが可能です。
株主が死亡すると、相続人に地位が相続されます。多くの相続人が現れて株主権行使が困難となることも想定されるので、定款で、相続人に渡った譲渡制限株式を強制的に買い取る制度を設けることが可能です。
出資額規制はなくなり1円会社の設立が可能となっています。
株式会社は、決算公告が必要です。
役員変更登記が必要ですが、任期を最長で10年まで延ばすことができます(任期を延ばすのは、費用面でメリットがありますが、10年後に役員変更登記を忘れてしまう会社も多く、登記を怠れば過料となります。役員の中で経営能力のない者がいた場合に、任期を10年まで延ばすことで、辞めてもらいにくくなることもデメリットと言えます)。
非公開会社であれば取締役兼株主一人の会社が作れます。
設立時は定款認証費用5.2万円位と登録免許税15万円が最低限必要です。

 

合同会社は、当初、知名度の低さから設立件数が伸び悩んでいましたが、近年、その良さが評価されて、増加傾向にあります。
西友、日本ケロッグなども合同会社。
比較的安く会社を作ることができ、設立後の費用も低額に抑えられます。
所有と経営の分離がない(出資者と経営者が同一)ので、個人事業の法人成りを検討する際には、比較的、組織形態に違和感を感じにくいのではないでしょうか。
将来的に広く第三者からの出資を募る形態に変えたくなった時に、株式会社化することが可能です。
まずは法人化したいという時に、合同会社をお勧めします。