親亡き後 ひきこもる我が子

寺島司法書士事務所 司法書士 民事信託士 寺島優子

ひきこもり 統計

内閣府は29日、半年以上にわたり家族以外と殆ど交流せず、自宅にいる40~64歳のひきこもりの人が、全国に61万3000人いるとの推計値を公表しました。15歳~39歳を対象にした調査で推計した54万1000人より多いです。

ひきこもる我が子 親亡き後の保障

我が子がひきこもったとき、親が生きている間は親の年金で我が子の生活を支え、親亡き後は、遺言で全財産を渡してその生活を保障したいと考える親御さんがいます。しかし、遺言を作成する際には、他の相続人にも配慮する必要があります。
例えば、遺産の全てをひきこもる我が子Aに相続させると書いてしまうと、遺留分を持つ他の相続人(ここでは、Aの兄Bとします)は、遺留分の権利を行使しようと考えるかも知れません。兄Bからすれば、自分には何らの遺産を残さないと書かれた遺言を見て、これが親から自分への最後のメッセージなのかと、非常に寂しい気持ちになるのではないかと思われます。複雑な想いから、その後、引きこもるAに対して、手を差し伸べる気持ちにはなれなくなるかも知れません。
また、Aは一人で、遺留分の権利行使への対応や、相続に伴う手続きを行うことができるのでしょうか。例えば、親から残された遺産が換価困難な不動産のみである場合、遺留分の権利を行使されれば、不動産をいかなる方法で売却するのか、他の方法で現金を用意するのか、支払について相当の期限の猶予を受けるのかといった検討が必要になります。また、相続は、市役所、年金事務所、税務署、法務局、金融機関、証券会社等と、遺産内容によって多岐に亘り手続きが必要となります。今まで頼りになるのは親だけだったのに、こうした処理を、適切な相談先を知らぬまま一人で行わなければならないとすれば、Aにとっては大変な負担です。すると、全財産をAに相続させるとした遺言が、必ずしもAを守ってくれないと言う皮肉な結果になります。
遺言を書くのであれば、残された家族の関係を壊さない内容とするのが望ましく、遺留分についても検討が必要です。また、兄Bとは、親亡き後、Aに何かあればフォローしてもらえるような関係作りをしておくことが、大切ではないでしょうか。

ひきこもる我が子 相談先の確保

我が子がひきこもったとき、相談先がないまま親が一人で抱えているケースがあります。しかし親亡き後を考えたとき、親以外にも我が子が悩みを相談する先を確保しておかないと安心できません。
厚生労働省はひきこもり対策推進事業として、各地の精神保健福祉センター内にひきこもり専門相談窓口を設けています。子ども・若者総合相談センターではひきこもり、いじめ、仕事の悩み相談を行います。地域若者サポートステーションは、就労体験、職業訓練を行います。各地のNPOでも、自治体の助成を受けて、ひきこもり支援活動を行っているところがあります。また、市役所、社会福祉協議会、民生委員なども相談に乗っているようです。
何が起きても幅広く相談する先があること、親亡き後も続くような支援者との関係作りを、心がけておかれると良いと思います。

ひきこもる我が子 利用できる制度

ひきこもる我が子の支援者の確保の他、我が子の年間収支の見直しを行い、今後いくらくらいのお金を用意できれば良いのかを知ることで、具体的に行動すべきことがはっきりしてきます。収支の見直しを行う際には、利用できる制度を知りましょう。

  1. 障害年金
    「ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン」では、統合失調症がひきこもりの原因である可能性は低くないと指摘しています。ひきこもりの原因が障害である場合、障害年金の受給ができる可能性があります。障害年金には国民年金から支給される障害基礎年金、厚生年金から支給される障害厚生年金があり、初診日にどの制度に加入していたかにより、請求できる年金の種類が変わります。初診日とは障害の原因となった病気又は怪我のために初めて医師の診察を受けた日のことです。初診日から1年6か月の認定日に障害等級が判断されます。
  2. 生活保護
    親と同居している場合、親の資産・収入も合わせて生活保護の要否が判定されますが、親亡き後一人暮らしになり、めぼしい資産がなく、最低生活費以下の収入となるのであれば、生活保護の受給を検討してみてください。
  3. 障害者手帳
    ひきこもりの原因が障害にある場合、精神障害、身体障害の手帳がとれれば、医療費助成が受けられたり、公共料金、税金が一部控除になります。
  4. 障害者手当
    役所の障害福祉課で特別障害者との認定が出れば、障害者手当が受けられます。
  5. 高額療養費
    医療費の自己負担は一カ月ごとに限度額が設けられています。医療機関で支払った自己負担が限度額を超えた場合、申請すれば払い戻しを受けられます。
  6. 日常生活自立支援事業
    日常生活自立支援事業とは、障害などを抱え判断力が不十分な方が、地域において自立した生活が送れるように、社会福祉協議会が、利用者との契約に基づいて、福祉サービスの利用援助等を行うものです。
  7. 成年後見制度
    判断力の低下があれば、成年後見制度の利用も考えられます。コラム「障害のある子を守る成年後見と民事信託」をご覧ください。

ひきこもる我が子 老いる親

我が子の収支の見直しの他に、老いていく親の資産管理内容および年間収支の見直しも行ってください。例えば換価困難な不動産に住んでいる場合、不動産を自宅として利用しているうちは何ら問題は起こりませんが、そろそろ移動が楽ではなくなってきたので売却して、駅近くの暮らしやすいマンションに移りたいと思っても、困難な不動産は売却に時間がかかります。そういう不動産を売却するには体力、気力が必要となります。境界紛争があれば解決までに何年も要するケースがありますし、裁判をしたとしても最終的に解決しないことがあります。不動産を売却するには、各種専門家との打合せが必要になりますし、売却した後は税金の問題が発生します。そして、判断力が低下すれば売るに売れなくなります。親自身の資産の内容を把握し、早い段階で、財産管理内容の見直しをすることで、負の財産に変わるのを防ぐことができます。
ひきこもる我が子に、要介護状態になった後のことを頼めないのであれば、親自身の老後について、どのような社会保障が用意されているのか把握すると良いです。コラム「おひとりさまの老後に備える」を参考にしてください。介護が必要になった親の支援から、ひきこもる子どもの支援に繋がっていくことはままあります。