民事信託(受益者保護)

寺島司法書士事務所 司法書士 寺島優子

受益者の保護

委託者が守りたい相手(受益者)が、自分の受益権を適切に行使できない状態にある者であれば、受益者の代わりに受託者を監督したり、信託事務処理を進める権利を果たす者を指定しておく必要があります。
これは一体、どのような人を指定すればよいのでしょうか?
自分の受益権を適切に行使できない人とは、例えば、認知症などにより判断力の低下した者、知的障害者、精神障害者、高次脳機能障害がある者、これらに類する障害のある者、未成年者などが考えられます。また、これらに該当せずとも、受益者に浪費癖があり、信託の設定に反対している(財産を一括で貰いたい)場合なども考えられます。その他、将来産まれるであろう子供や孫を受益者とすることもあります(まだ存在しない者を受益者とするため、受益権を行使できないという意味)。

信託管理人

受益者が将来産まれるであろう子供や孫など、受益者が現に存在しない場合に、受益者の権利を行使する者を信託管理人と言います。受益者が存在するようになれば、信託管理人の事務は終了します。信託管理人は、受益者のために自分の名をもって(受益者の代理人としてではなく、信託管理人自身の名で)権利行使します。なお、受託者は信託管理人を兼ねることはできません。信託管理人は受託者を監視・監督する立場だからです。その他、未成年者、成年被後見人、被保佐人も信託管理人にはなれません。
信託管理人の定めがない、もしくは、定められた者が就任しないときは、裁判所が、申立により信託管理人を選任することができます。

信託監督人

認知症の高齢者や、障害者、未成年者が受益者の場合など、受益者自身に受託者の監視・監督をすることが望めないような場合には、受益者のために自己の名をもって受託者を監視・監督する、信託監督人を置くことができます。
信託設定当初は信託監督人を置く必要がなかったけれども、途中から受益者が受託者を監視・監督できなくなった場合や、受託者が高齢で事務処理上のミスが増えた場合などにも、監督の強化が必要となりますので、信託に設置の定めがなければ、申立により、裁判所に信託監督人を選任してもらうことができます。逆に、当初からそうした事態が想定できる場合、つまり、委託者が当初受益者になるけれども、委託者死亡後は、障害のある子供や認知症の配偶者を受益者とする等、委託者死亡時点からは受託者の監視・監督ができなくなるといった場合は、委託者の死亡を条件として、信託監督人を設置する定めを置くことが可能です(信託管理人も同様)。
民事信託を検討するケースは、受益者自身が適切に意思表示や権利行使ができないことが多いですから、受託者しか信託の現状を把握できる者がいないと、受託者に対する監督者不在のまま、長期間財産管理がなされる怖れがあります。そのような信託を設定するのは不適切であり、受益者のために、信託監督人か、次に登場する受益者代理人を置くことを検討すべきと考えます。
信託監督人については、受託者、未成年者、成年被後見人、被保佐人には、なることができません。

受益者代理人

受益者代理人は、受益者のために、代理人として受益者の権利を行使する者です。受益者の判断能力が欠けている場合や、受益者が刻々と変化する場合、受益者が多数おり意思決定が困難な場合などに選任することができます。受益者代理人が選任されると、受益者自身は、一部の権利を除いて行使できなくなります。この特徴があるため、浪費癖がある子どもが受益者である場合に、受益者代理人を活用することが考えられます。
受益者代理人も、信託管理人や信託監督人と同様に、委託者兼当初受益者の死亡を条件として置くといった定めが可能です。注意すべきは、裁判所に受益者代理人を選任してもらえるのは、「受益者代理人の任務が終了した場合」における、新受益者代理人の選任の場合のみです。予め定めておいた者が受益者代理人に就任することを断ったり、就任前に死亡したり、信託に受益者代理人の定めがなければ、裁判所は選任することができません。これはなぜかと言うと、受益者代理人は受益者の権利行使に重大な影響を及ぼす者なので、委託者が意図しなかった受益者代理人を、裁判所が選任するのは相応しくないと言うのが理由であるようです。
受託者、未成年者、成年被後見人、被保佐人は、受益者代理人になることができません。

受益者保護の必要性

民事信託は、受益者のための財産管理制度です。そのため受託者に様々な義務が課されていますが、受益者に自分の権利の主張ができない場合には、受託者がそれら課された義務を果たしているか否かの監視・監督ができないこととなり、受益者の権利が守られるのかという不安があります。そうした不安のある民事信託を、信託に関与する金融機関(他の取引相手)が信用してくれるのかといった問題もあります。
成年後見制度においては、家庭裁判所という公的な監督機関が存在するにも関わらず、残念なことに制度開始当初から、不正事案は常に存在していました。任意後見契約においては、委任者の判断力低下後、任意後見監督人という監督者が選任された時から、後見事務はスタートします。任意後見人は、委任者が信頼のおける人物を選ぶわけですから、監督人は不要と感じられるかもしれません。しかし、委任者の判断力低下後の監督者不在を、法は許さなかったわけです。そうした仕組みがあるから、金融機関(他の取引相手)は任意後見人を信頼したのです。
親族内で行われる民事信託においても、受益者自身が、自分の権利を主張することが難しければ、受益者保護関係人の設置を検討すべきです。

受益者保護のなされない信託

信託が始まれば預金口座は、受託者の名義で管理されますが、受託者の固有財産となるわけではありません。ですから、受託者にたとえ破産手続開始決定や差押えを受けるような事態が生じても、信託財産は守られることになっています。それが信託の倒産隔離機能と言われるものです。しかし、そのためには受託者が、金融機関の信託口座(受託者名義)を開設し、受託者自身の財産とは分別して管理する必要があります。
ところが受益者の権利が守られない、名前だけの信託の仕組みでは、金融機関は信託口座の開設を認めません。例え受託者名義の口座を作れたとしても、倒産隔離機能は働かないのではないでしょうか。この点からも、受益者を保護する仕組みについては、きちんと検討されるべきです。