同性婚への任意後見契約の活用について

寺島司法書士事務所 司法書士 寺島優子

映画「ハンズ・オブ・ラヴ~手のひらの勇気~」

「警察官という仕事に打ち込んできた正義感の強い女性・ローレルは、ある日ステイシーという若い女性と出会い、恋に落ちる。
年齢も取り巻く環境も異なる二人は、手探りで関係を築き、
郊外に一軒家を買い、一緒に暮らし始める。
家を修繕し、犬を飼い、穏やかで幸せな日々が続くはずだった…。
しかしローレルは病に冒されてしまう。
自分がいなくなった後もステイシーが家を売らずに暮らしていけるよう、
遺族年金を遺そうとするローレル。
しかし法的に同性同士に、それは認められていなかった。
残された時間の中で、愛する人を守るために闘う決心をした彼女の勇気が、
同僚やコミュニティ、やがて全米をも動かしていくことになる…。 」
(ハンズ・オブ・ラヴ~手のひらの勇気~公式サイトより)

この映画で問題となったのは、遺族年金でした。法律婚をした配偶者であれば当然に受けられる遺族年金を、同性のパートナーには残すことができないという現実。亡くなる前に、その現実を変えようと戦った女性の記録です。
同性のパートナーには、この他にも様々な障害があります。一緒に暮らす家を借りる又は購入する、配偶者控除を受ける、医師からパートナーの医療方針を聞く、子ども育てる間の育児休暇、パートナーやその親の介護のためにとる介護休暇、パートナーの判断力が低下した時の財産管理、パートナー亡き後の葬儀や供養、等。法律婚ができないために立ちはだかる様々な障害。
皆さんはそこにどう立ち向かっていく予定ですか。

渋谷区のパートナーシップ証明書

2015年、渋谷区で、結婚に相当する関係を認めるための「パートナーシップ証明」の発行が始まりました。条例では、この証明書を持つ同性のカップルに対しては夫婦と同等に扱うように求め、従わない場合の是正勧告の定めを設けています。この「パートナーシップ証明」の動きは、世田谷区、宝塚市、那覇市、伊賀市、札幌市へと広がっていきました。
しかし、この証明には法的な拘束力はないこと、条例による対応が始まったのは一部の地域であること、この証明による最大限の配慮がどこまで望めるかは不透明であることから、パートナーにもしものことがあった時、法律婚のような安心を得られるまでにはまだまだ時間がかかりそうです。

パートナー契約

今まで、同性パートナーを法的に保護するには、「養子縁組」という制度が利用される傾向にありました。しかし、養子縁組とは、当事者に法律上の「親子関係」を作るものです。養子縁組によってつくられる親子関係は、当事者のみでなく親族に対しても、「夫婦」としての姻族関係ではなく、「親子」としての親族関係を作り出します。
これに対し、パートナー契約は、準婚姻関係を契約によって明らかにするものです。互いの将来を真剣に考え、将来のトラブルを未然に防ぐために、今は法的な婚姻と言う制度が使えなくても、互いの関係を婚姻関係に準ずるものとして、公正証書で明らかにします。
婚姻に準ずるので、同居の義務、貞操義務、共同生活で築き上げた財産についての取り決め、医療に関する意思表示、婚姻関係解消に関すること、そうした二人の生活に於いて大切な決め事を、契約書にしておくのです。
特に、医療に関する事前指示は、パートナーに医療行為が必要となった時に威力を発揮します。いざというときに一番大切なパートナーが医師の診断を聞くことも意見を言うこともできない、そんな悲しい事態に陥らないように、医療に関することは事前に決めておくことが大切です。その中で、もしもの時の最終確認をとるべき、自分に代わる判断者を指定しておくことができるのです。終末期医療に係るガイドラインによれば、「医療に係る事前指示書に最終確認をとるべき相手として家族以外の者が指定されている場合は、その者の指定に従う」とされています。この定めをしておかなければ、親族関係にないパートナーの意見を取り上げてもらうことは難しいのです。

任意代理契約

ノーマライゼーション(高齢者や障害者が、住んでいる地域で普通に生活できる)の理念が社会に浸透するにつれ、「自分のことは自分で決めたい」という気持ちを尊重する流れが生まれ、その結果、福祉サービスを受けるにも、サービスを行政が一方的に決定するのではなく、本人が、自分の受けたいサービスを決め、事業者と契約をする制度に変わっていきました。その結果、判断力が低下した方であっても、福祉サービスを受けるには自らサービス内容を確認し、契約を締結する必要があります。
要介護状態になれば、介護保険の申請や更新、必要な介護制度の利用、施設との契約、不要になった自宅の売却、病院の入院手続など様々な契約が必要となります。
自ら契約を行えている間は何ら問題とはなりませんが、同性カップルの一人が何らかの契約を行いたいと思った時に、要介護状態となればどうでしょうか。銀行に行く、役所で手続する、そんな、日々当たり前に行ってきたことが身体の衰えによって自分では難しくなった時、パートナーが代わって行うことを法的に認める書面が必要です。それが任意代理契約です。
判断力が低下する前に於いて、任意後見受任者との間で、希望する内容の財産管理を代行してもらう取り決めをするのです。書面は公正証書で交わします。

任意後見契約

判断力が低下した後に、誰にどのような財産管理を行ってほしいのかを予め決めておき、公正証書で後見人になってほしい人物と契約しておく方法が任意後見契約です。特に同性カップルの場合は、法的な保護制度がありませんので、パートナーのうち一人の判断力が低下した時に、相手との生活が守れなくなるリスクが高いと言えます。パートナーとの関係を、法的に認められた後見人という立場にしておくことで、判断力が低下した後もお互いの関係を壊さずに生活を続けることができます。
もともと任意後見契約は、後見人には自分の一番信頼する人物を置きたいという気持ちがある場合に使われる、後見制度の一つで、判断力が低下する前に、将来のライフプランを明らかにしておき、後見人に任せる内容を公正証書にします。この契約に於いて、自分の判断力が低下した後には、誰に後見人になってもらい、どのような財産管理を行ってほしいのかを明らかにします。
「私の判断力が低下した後に、親族が、私の財産をどのように管理するのか不安である、パートナーの意見を受け入れてもらえないかも知れない」等と言った不安があるのであれば、ぜひ活用していただきたいです。気持ちを明らかにするためにはエンディングノートが活用される傾向にありますが、任意後見契約はエンディングノートとは違って、法的な効力があります。本人の判断力が低下した後、パートナーは、任意後見人として、契約通りに財産管理や身上監護を行います。後見人の活動は、任意後見監督人(弁護士か司法書士)の監督を受けます。

死後事務委任契約

パートナー亡き後の諸手続、債務の支払い、日用品の処分、葬儀、納骨、供養についての取り決めを行うのが死後事務委任契約です。この書面をパートナーとの間で交わしておくことにより、死後に必要な一切の手続をパートナーに任せることが可能となります。

遺言

築いた財産を、自分の死後どう分配してほしいか決めておくのが遺言書です。
法律婚であれば法定相続分が認められますが、同性カップルにはそうした保護がないので、生活を支えてくれたパートナーを守るために、遺産をどう分けてほしいのか、書面にしておく必要性が高いと言えます。
遺贈として、身分上は第三者であるパートナーに財産を残すことで、贈与税より税率の低い相続税の適用を受けられます。

 

様々な制度を使って、同性パートナーを守ることができます。
利用を検討される場合は、ぜひ、相談にお越しください。