民事信託士

寺島司法書士事務所 司法書士 寺島優子

民事信託士検定

この度、一般社団法人民事信託士協会の第3期民事信託士検定に合格しました。民事信託士協会における民事信託士は、「信託業法の適用を受けない民事信託に関して、当事者の依頼により、民事信託に関する相談業務やスキーム構築のほか、受益者保護や信託事務遂行の監督等の業務を行う者としての受益者代理人・信託監督人、信託事務受託者(信託法第28条)を担える者」と定義されています。民事信託士検定は、司法書士・弁護士に受験資格があり、合格後も、一定の研修を受け続けて日々研鑽を行い、能力の向上に努めます。
最近よく、この「民事信託」という言葉が聞かれますが、一体どのような仕組みなのでしょう。話を聞いたことはあるけれど、実際のところはよく分からないという方も多いのではないでしょうか。今年は、この民事信託の仕組み、使い方などを、コラムでご紹介できればと思っています。

民事信託 検討するのはこんなケース

一般社団法人民事信託推進センター「民事信託実務ハンドブック」によれば、次のような場合に民事信託を検討する余地があるとされています。

  1. 家産の確実な二次承継・移転をも望む場合
  2. 贈与後の子どもの先死亡等その後の事情変化により、見直すことを望む場合
  3. 判断能力低下に備え、自らまた配偶者・家族の生活が安定できるようにしたい(成年後見制度では思うような本人・家族のための使用はできない)場合、世話が必要な者と世話をする者(伴侶亡き後の、親亡き後の家族)のために遺したい場合
  4. 後の配偶者の居住・生活資金を確保しつつ、前の配偶者との間の子へ確実に財産承継・帰属できるようにしたい場合
  5. 自社株、先祖からの不動産を維持し、議決権行使を円滑にし、今後の相続による家産・事業財産の承継、分散を避けるとともに、他の相続人の生活を安定させたい場合
  6. 負担付遺贈の履行・財産管理に不安がある場合
  7. アンバランスな財産構成、複雑な家族構成ゆえに、円滑な遺産分割方法として、財産から生じる果実を特定の家族に与え、その元本は他の家族に帰属させたい場合
  8. 生活維持・財産管理・判断の能力に疑問(たとえば気が弱い・ハンディがある・騙されやすい・散財する)がある子孫に、事情に応じて臨機応変に対応してほしい場合
  9. 同居または近所に住み、身近な存在である可愛い子孫に対し、十分な教育を受け・豊かな人生を得られるように、また感謝の気持ちとして残った財産を定期的に渡したい場合
  10. 自己の存在を忘れられないように菩提を弔う寺院、特定の子孫の活動、可愛いペット、または特定の非営利活動等に、定期的に援助し続けるようにしたい場合
  11. 成年後見制度も利用しつつ、家族のためにも財産が活用できるようにしたい場合
  12. 身体障害等、成年後見制度が利用できないので財産管理もしたい場合
  13. 成年被後見人等になると借入行為、借入の更新・契約変更等ができないので困る場合

いずれも、既存の仕組みではうまく対応できない場面において、民事信託と言う新しい仕組みを使うことで、財産所有者の願いが叶えられないかを検討していきます。いかなる場面にも民事信託の利用をお勧めするわけではなく、既存の仕組みで対応できる場面においては、既存の仕組みを活用するのが、コスト、労力、リスクを考えて、妥当であると思います。

民事信託の仕組み

民事信託の仕組みは、何度聞いても分かりにくいと言われます。それは、委託者、受託者、受益者の3者が登場するからです。委託者は財産を拠出する人、受託者は財産を管理処分等する人、受益者は信託された財産の元本、収益の全部又は一部を受ける人です。
ある法律関係が信託とされるためには、①一定の財産が存在し、それが受託者に帰属すること、②達成すべき目的が定められていること、③受託者は、②の目的に従って、①の財産につき管理、処分など目的達成のために必要な行為をする義務を負うこと、という要件を満たす必要があります。
よって、委託者の財産は受託者に移され、受託者の名義にて管理されます。あくまで信託財産なので、受託者固有の財産になるわけではありません。受託者は、信託の目的を遂行する範囲に限って、財産を管理処分等する権限を有します。受託者の名義になった財産が、信託目的に反する管理処分等なされないよう、受託者は善管注意義務等の厳格な義務を負い、権利の濫用がなされないように規制されます。なお、信託は受益者のための仕組みなので、信託の目的を、専ら受託者自らの利益を図る目的に設定することはできません。信託の仕組みの中で一番中心的な役割を果たすのが受託者です。未成年者、成年被後見人、被保佐人は受託者になることができません。受託者がもしその任務を怠れば、信託財産に損失が発生してしまいますので、受託者には、きちんと信託の目的に従った行動ができる人物を選任する必要があります。
受益者は、受益権を取得し、信託の利益を受け取ります。また、受託者を監督する等、受益権を守るための権利を行使します。
この仕組みを見ると分かるように、委託者は信託を設定し、財産を拠出した後には、特段、出番がありません。ですが、信託を遂行する上で必要な監督をしたり、信託の基礎的な変更を行うことはできるようになっています(委託者がこのような権利を行使しない信託を設定することもできます)。

民事信託の仕組みで家族を守る

財産を渡しても、渡された者が適切に財産を管理処分することができないのでは、意味がありません。そこで上記のような民事信託の仕組みを使うことで、委託者が守りたい相手(財産を管理できない認知症の配偶者、高齢者、障害をもつ子ども、浪費癖のある子ども等)を受益者と定めて、受益者のために財産を管理処分してくれる信頼のおける受託者に、一定の財産を信託します。財産は受託者によって適切に管理され、必要に応じて、受益者の生活費、療養費等の支払に充てられます。受益者が死亡する等、信託を維持する必要がなくなれば信託は終了し、残った財産は、当初定めておいた者に引き渡されます。こうした仕組みが、信託期間中、きちんと機能するようにスキームを構築することが大切です。
委託者が守りたい相手(受益者)が、自分の受益権を適切に行使できない状態にある者であれば、受益者の代わりに受託者を監督したり、信託事務処理を進める権利を果たす者を指定しておく必要があります。