社会福祉法人改革と独居高齢者

寺島司法書士事務所 司法書士 寺島優子

社会福祉法人とは?

社会福祉法人は、高齢者施設、障害者施設、各種福祉施設、保育園等、社会福祉事業を行うことを目的として、社会福祉法の下に設立された法人のことです。少子高齢化、高齢者の単身世帯の増加、ノーマライゼーションの概念の浸透など、社会の在り方が変化して、高齢者や障害者が、地域で今まで通りの暮らしを続けるためのニーズに対応する必要が生じました。
2000年4月の介護保険法施行をきっかけに、介護事業に新規参入する事業者が増加しました。
社会福祉法人はその非営利性・公益性に鑑みて、運営にあたり強い公的規制を受けますが、税制面での優遇措置や補助金の交付等の支援措置を受けられます。
税制面での優遇措置の内容としては、法人税、道府県民税、市町村民税、事業税、固定資産税について、社会福祉事業に関するものであれば、原則非課税とされています。
また、社会福祉法人による施設の整備には一定額の補助が受けられます(国1/2、地方公共団体1/4)。

社会福祉法人の改革?!

新規参入事業者が増加した結果、競争が激化しました。利用料が低額な特別養護老人ホームは相変わらずの人気で、数百人の待機人員が居ることがありますが、対して、他との差別化が図れない有料老人ホームなどは、入居者集めに苦戦しているようです。
更に、2006年の介護保険法改正で介護報酬の引き下げが経営を直撃し、翌年以降の倒産件数の増加に繋がりました。帝国データバンクの調査データによると、倒産する事業者の9割が業歴の浅い小規模事業者だそうです。そして、人手不足問題、2015年の介護報酬改定と、体力のない小規模事業者には厳しい経営環境が続きます。
介護事業者が倒産すれば、入居、又は利用している高齢者は困ってしまいます。
そこで社会福祉法人については、経営組織のガバナンスを強化し、事業運営の透明性の向上等の改革を進めよう、更に、介護福祉人材の確保を推進するための改革を行おうということになりました。社会福祉法人制度の改革です。
改正後、社会福祉法人は公益財団法人と同等以上の公益性を担保できる経営組織にするため、組織の在り方が変ります。
また、介護事業は人の命を預かる業界ですから、経営状況の改善、事件事故を起こさない為の内部管理体制の強化、サービスの質向上が求められます。そのため、所轄庁の指導監督が強化されました。
更に、地域における公益的な取り組みを実施することが求められます。税制面で優遇される法人なのだから、地域への福祉サービスを無料又は低額な料金で行う責務がありますよという点を明らかにしました。

独居高齢者の支援の必要性

一方で、わが国では、核家族化により、単身世帯の高齢者が増加しています。独居高齢者は、自ら積極的に社会とのかかわりを持つ方であればそれほど心配ありませんが、外に出て地域活動を行うことが苦手な方もいます。そうした高齢者が認知症になった時、適切な支援の手が入らないと、セルフネグレクト、ゴミ屋敷問題、孤立死の問題に発展していく可能性があります。
高齢者の単身世帯は2010年には男性約139万人、女性約341万人で、高齢者人口に占める割合は男性11.1%、女性20.3%です。
判断力の低下した方には、4親等内の親族が後見人等を選任するための申し立てをして、選任された後見人等が、本人にとって必要な契約を結び、本人の生活を守ることができます。しかし、近年、孤独で、身近な親族がいない、もしくは親族の支援を全く受けられない方が増加しています。例えば、成年後見制度では、4親等内の親族から後見制度の申立をすることが望めない場合、市町村長申立という方法を用意しており、制度開始当初、この市町村長申立は全申立の0.5%に過ぎませんでした。この数が、2016年には18.8%になりました。
地方自治体では、地域で今まで通りの暮らしを続ける高齢者を増やすため、認知症予防の取り組みを進めていますが、家に閉じこもっている高齢者の場合は、自治体が積極的に訪問しても嫌がる方が多いでしょう。認知症予防の取り組みに参加するのは、元々、地域社会とのかかわりを持っていた方に限られるのが現状ではないでしょうか。
それでは、セルフネグレクトや孤独死が、個人の問題であると切り離して考えることができるのかと言うと、なかなかそうはいきません。ゴミ屋敷、荒れ果てた庭が放置されれば、放火等の危険を誘発しやすくなります。財産管理能力がない高齢者の家から伸びてきた草木が、隣人や周辺環境に悪影響を及ぼすこともあります。認知症で衣服にコンロの火が燃え移ったことに気づかない、洗濯機のホースが抜けて家じゅうが水浸しになっても自分では対応できない、そういう状態の方がアパートを借りていたら、賃貸人はたまったものではないでしょう。
孤独死が起こったまま何年も気づかれないと、賃貸物件の資産価値は下がってしまいます。そうした問題を避けるため、高齢者への賃貸物件の貸し出しを制限すると、それはまた別の問題を引き起こします。
認知症以外にも、要介護状態になったときに、介護保険の使い方を知らず、支援者の元に辿りつけない高齢者にとっては、日々の生活が困難となります。介護事業者が独居高齢者に出会い、アドバイスすることが、独居高齢者にとっては地域社会で生活を続けていくための貴重な一歩となります。
独居でなくても、老老介護の割合が過去最高の54.7%に達した今、支援が必要な層は多いのです。
地域における公益的な取り組みを「責務」と定められた社会福祉法人にはぜひ、地域における独居高齢者に、今まで以上にかかわりを持つ方法を、模索して頂けたらと思います。
当事務所では、2017年11月、認知症当事者の方やその家族、支援者を対象としたオレンジカフェ(認知症カフェ)を開催します。気軽にお茶を飲みながら、認知症のこと、介護のことを専門の相談員や司法書士にご相談ください。尚、今回の相談員は社会福祉法人静友会の皆さんにお願いしました。
認知症カフェの開始時には、地域包括支援センターが、介護保険の利用方法について、お話する予定です。チラシが完成次第、当事務所のHPに掲載しますので、ぜひ、お誘いあわせの上、ご参加ください。

社会福祉法の一部を改正する法律と理事長の登記

ところで、話は変わって、今回の社会福祉法の改正で司法書士が主に関わった点と言えば、理事長の法人登記です。
社会福祉法の一部を改正する法律が2017年4月1日から施行されたことに伴い、理事の任期は、施行日以後最初に招集される定時評議員会の終結の時に満了し、退任することとされました。
今まで、理事は法人を代表し、理事が複数いるときは各自が代表権をもち、特別に理事の中から理事長を定めたときには当該理事のみが代表権を有するとされていたので、理事長たる理事の資格は、「理事」として登記がなされていました。しかし、改正により、施行日後最初に招集される定時評議員会の決議で後任の理事を選任し、後任の理事による理事会決議で理事の中から新たに理事長1人を選出することとされました。その結果、理事長は「理事長」という資格で登記されることになりました。社会福祉法人の会計年度は4月1日に始まり3月31日に終わるものとされています。そして会計年度終了後3月以内に、各会計年度における計算書類等を作成し、当該計算書類等について理事会及び定時評議員会の承認を得た上で、所轄庁に届けなればならないとされています。この流れから、法施行日以後の最初の定時評議員会は2017年6月までに招集されます。
さらに、登記事項に変更があった場合には、変更が生じた日から2週間以内に、その主たる事務所所在地で変更の登記をしなければならないので、2017年6月~7月にかけての社会福祉法人の登記件数は相当な数に上りました。

 

社会福祉法人の不動産の取引においても、司法書士が関与します。
社会福祉法人が社会福祉事業の為に取得する不動産の登記の登録免許税は、非課税になります。但し、この非課税の適用を受けるには、登記申請時に、社会福祉事業の用に供するものであることの都道府県知事の証明が必要です。非課税証明書の取得には、申請から多いときで1か月弱かかることがあります。余裕をもって手続きをしてください。

 

社会福祉法人の登記についてご質問などございましたら、当事務所にお問い合わせください。
当事務所では、認知症カフェ、認知症対策セミナーなどを、随時開催しております。ご協力いただける事業者様がございましたら、ご連絡お待ちしております。