相続登記と所有者不明土地問題

寺島司法書士事務所 司法書士 寺島優子

所有者不明土地の現状

増田元総務省ら有識者による研究会は、2017年6月、所有者不明土地が全国で410万ヘクタールに上るとの推計を発表しました。全国の土地の20.3%が、登記簿上の所有者が分からない状態になっているのです。
2016年3月には、公益財団法人 東京財団が、広がる国土の不明化を自治体アンケート結果から明らかにしており、今後、この所有者不明土地は増え続けるであろうと結論付けています。
国土交通省 平成26年度所有者不明化による国土の利用困難化に関する基礎的調査報告書によると、最後に所有権の登記が行われてから50年経過した物件が19.8%、30年~49年経過した物件が26.3%存在するとしており、このデータからも所有者不明土地の拡大は必至であろうと推測されます。
復興庁によれば、東日本大震災後、防災集団移転促進事業の用地取得率は、震災から2年半経過後も49%に留まり、用地取得が難しく、移転先の区域を変更したケースは3県で459件に上ります。
南海トラフ地震、首都直下型地震が心配されていますが、将来の復興事業の妨げとなる問題は、極力解消していく必要があります。

なぜ相続登記がなされないのか

役所への死亡届出や固定資産税納税者の届出(相続人代表者指定届)をすれば、不動産登記簿上の所有者も自動的に変更されると勘違いされている方が多いのですが、不動産登記は別途、相続による所有権移転登記を行わない限り、登記簿上の所有者は変わりません。
所有者が遺言を作成しており、その中で不動産の承継者が指定されていれば、遺言による登記ができますが、遺言を作成していなければ、法定相続人による遺産分割協議が必要です。相続人同士で協議が整えば、承継する相続人への所有権移転登記を行うことができます。
法定相続人が配偶者と子どもなど、普段から親しい付き合いがある関係であれば、遺産分割協議で揉めることは少ないかも知れません。しかし、高齢の兄弟姉妹が法定相続人となる場合等は、普段から親しい付き合いをしていないこともあります。法定相続人自身が亡くなった被相続人を知らないというケースも少なくありません。そのような親族関係においては、協議を成立させるのが難しくなります。話し合いができなければ家庭裁判所で調停をしなければなりません。
相続人の中に判断力を欠く者がいれば、成年後見人等が就任しないと協議ができません。更に成年後見人等が遺産分割協議者の1人であれば、別途、特別代理人を選任する必要も出てきます。
相続人の中に行方不明者がいれば、家庭裁判所にその事実を伝えて、不在者財産管理人を選任してもらい、その者と協議をする必要があります。下記のとおり、遺言を作成した方がいいと思われるケースは、たくさんありますが、遺言の作成率は、8%と少ないのです。

  1. 不動産のみしか遺産がなくて分配で揉めそう
  2. 子どもがいない
  3. 再婚しており前婚の配偶者との間にも子どもがいる
  4. 同性婚
  5. 子どもに障害のある子がいる
  6. 相続人が外国にいる
  7. 介護した家族に財産を別に渡したい
  8. 相続人がいない
  9. 相続人同士仲が悪い

相続した不動産を売りたいとき

登記は、物事が起こった順番に行う決まりがあります。相続した土地を持っていても仕方がないので売却したいと思った時、まずは相続登記をして、それから売買の登記をすることになっています。
土地を活用したいと思った時に、何年も登記を放置したままだと、話し合いをするための相続人探しから開始しなければなりません。法定相続人の数が、数百人数千人に上ることもありますので、時間が経つほど、大変な作業になってしまいます。

所有者としての責任

相続登記をしなくても、登記簿上の所有者の相続人の一人である以上、所有者としての責任は付きまといます。固定資産税の納税者のみが責任を負うのではありません。必要のない不動産だから放置するのではなく、相続人同士で所有者を決めて、不要な土地であれば売却、賃貸等の活用を検討されることをお勧めします。
相続人であることを否定したいのであれば、不動産所有者である被相続人が亡くなり、法定相続人自身が自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、家庭裁判所に相続放棄の申立を行わなければなりません。

法定相続情報証明制度

平成29年5月29日から、法務局に於いて法定相続情報証明制度が開始しました。相続が起こると、法務局、金融機関、保険会社、証券会社、税務署等各申請先に相続の証明である戸籍謄本等の束を提出する必要がありました。この制度では、申出書と共に戸籍謄本等の束を一度法務局に提出すれば、法定相続情報一覧図という紙を発行してくれ、それが戸籍謄本等の束と同等の証明に使えるようにしたのです。
今までも、各申請先には原本を返却してもらえましたので、戸籍謄本等を提出先分取得する必要まではなかったのですが、この一覧図であれば、何枚でも必要部数発行してもらえるので、一度に全ての申請先への手続が可能となり、時間短縮が可能となります。申請先においても、法務局で証明してもらえば、戸籍謄本等を一から確認する手間が省けます。その点、便利になりました。

 

相続が発生すると、不動産以外にもたくさんの手続が必要になります。
相続登記の他、遺産の相続人名義への変更手続(遺産承継業務)、遺産調査、戸籍集め(相続人調査)、遺産分割協議書作成、相続放棄申立、法定相続情報証明の申出、遺言書の検認申立、生前の遺言書作成等、承っております。ご質問ご相談等あれば、当事務所のセミナーにお越しください。
ご参加お待ちしております。