空き家について

寺島司法書士事務所 司法書士 寺島優子

空き家の現状

総務省「住宅・土地統計調査」によると、全国の空家率(総住宅数に占める割合)は現在、13.5%に達しています。
空き家戸数で言えば、20年前は448万戸だったものが、10年前は659万戸、現在は820万戸となり、20年前から2倍近く増えました。このうち、管理の行き届かない「その他住宅」と呼ばれる空家は318万戸存在します。その数は総住宅数の5.25%にもなります。「その他住宅」は木造一戸建が一番多く、220万戸あります。
神奈川県で言えば、空家率は全国よりも低く、11.2%です。但し、神奈川県は人口が多いので、空家の数自体は多く、深刻な問題です。更に、神奈川県には75歳以上の単身世帯が住む持ち家が約12万戸(このうち戸建は約6万戸)存在し、今後急激に空き家が増加していく可能性が高いと言えます。

空き家が増える背景

住宅取得層の減少

本格的な人口減少時代を迎えましたが、生産年齢人口は、人口より10年先行して、1998年の6793万人をピークに、減少を始めました。特に団塊ジュニア世代が住宅の第一次取得層から抜けた今、新築住宅が今後も右肩上がりに増加することは考えにくいと言えます。しかし日本における中古住宅の流通は国際的に見ても少ないため、中古住宅の評価基準が流通には不向きであり、また、リフォームによる物件価値の評価方法が確立されていません。100年使える立派な家を建てても、中古住宅の流通量が少ないために、居住者がいなくなれば、取り壊されるか放置されます。それはとても勿体ないことです。
中古住宅を適切に評価して、世帯毎の需要にあった住替えを促すため、2017年以降、既存住宅状況調査技術者講習が実施されています。

相続税対策

2015年1月、相続税の基礎控除額や税率が変更された影響を受け、相続税対策としての賃貸物件の新築戸数は増加しています。人口動態を反映しないまま供給が増えれば、それが空き家の原因に繋がります。
住宅ローン金利の低下、住宅資金贈与の非課税制度、年金制度への不安から、金融機関の大家ローンは順調に増加しています。
この結果、条件の悪い住宅から空き家化していきます。

生産緑地

1968年、高度経済成長の時代に、新都市計画法ができました。当時は、都市への急激な人口流入と産業集中が進む中で、無秩序な土地開発を規制する必要がありました。そこで市街化を促進する地域と市街化を抑制する地域を分けることになりました。
1974年には、市街化を促進する地域の中でもある程度農地を残して、自然のある良好な生活環境を確保しよう、更に将来、病院や学校が必要になった時に土地を活用できるようにしようという、生産緑地法ができました。生産緑地に指定されれば、その土地は農地課税となるので、税金の負担は安いですが、農地としての利用が義務付けられます。
1991年に市街化区域内の農地が生産緑地に指定されて、これらの土地は指定から30年、農地として管理することになりました。結果、2021年には、農地の指定を解除された広大な土地が、市場に流通することになります。

マンション問題

古いマンションの増加も問題です。現在、古いマンションは全国に630万棟あると言われますが、マンションの築年数と共に、住人が高齢化し、管理組合が機能不全に陥っています。2016年3月、国はこの問題に着手するため、マンションの標準管理規約を改正し、マンション管理の適正化に関する指針を定めました。

世帯数の減少

核家族化により、現在の世帯毎の平均人数は2.38人ですが、2025年には世帯数自体の減少が始まります。

多死社会の到来

そして日本では毎年130万人の方が亡くなっています。この数は2030年には138万人、2040年には156万人に達します。

孤立死の増加

高齢者の単身世帯が増加しています。2010年には、男性約139万人、女性約341万人で、高齢者人口に占める割合は、男性11.1%、女性20.3%となっています。高齢者の単身世帯が増加すると、かつては家族内で役割分担できていたことが、家族以外の誰かの手が必要になると言うことです。
例えば、判断力が低下した高齢者には、4親等内の親族が後見人を選任するための申立をすることができます。しかし、家族が近くに居なければ、判断力の低下に気づくことができません。その場合、放置すれば事態は悪化しますので、成年後見制度に於いては、市町村長申立という制度を使って、後見人の選任申立をします。市町村長申立は、4親等内の親族がいない場合の例外的な制度なので、制度開始当初は全申立の0.5%に過ぎませんでした。この数が2016年は18.8%になっています。家族に気づかれぬまま、判断力が低下した高齢者の家は、適切な管理をする者がいない訳ですから、ごみ屋敷化したり、事件事故の原因となっていきます。
さらに、そこで孤立死が発生すると、警察を呼んで処理するしかなく、処分困難な不動産が増加する一因となります。

出生数の低迷

死亡数に対し、出生数は回復しないまま、年100万人を切り、98万1000人となってしまいました。

 

様々な要因が絡み合って、空き家の問題は今後、深刻化していきます。
野村総合研究所では、2023年には空家率は20%、2033年には30%に達すると予想しています。

空地の問題

東京財団による全国自治体調査は衝撃的な事実を明らかにしました。現在、相続登記のなされない不動産は全国で200万件にも上ります。林業の低迷、土地の資産価値の低下(地価は24年連続で下落)、コミュニティーの希薄化、経済活動のグローバル化、少子高齢化などの諸事情により、所有者の分からなくなった土地が今後も増え続けるであろうとの調査結果です。所有者が分からなくなれば、今後は、自治体が固定資産税を徴収することも出来ません。そうした土地の所有者を探すには大きな壁が立ちはだかります。固定資産税徴収のために所有者を追跡したいと思っても、戸籍情報で現在の所有者を追跡して、その数が数百人数千人に及ぶことがありますし、結果として所有者が分からないこともあります。その場合、資産価値が低い土地のために多額の申立費用を支払って財産管理人を選任するのは、住民の理解が得られないのではないでしょうか。
そもそも自治体には登記簿情報と納税情報以外に、不動産所有者を把握するシステムが存在しないので、今後、未相続登記が更に増えれば、税の徴収が困難となっていきます。

空家等対策推進特別措置法

街に空き家が増えていくと、どんなことが問題になるのでしょうか?
まずは防災性が低下します。防犯上の問題も増えます。風景・景観が悪化します。資産価値が低下します。空き家があることで、街に社会問題を引き起こします。こうした心配から、2014年10月時点で401の地方自治体が条例を制定し、地域の実情に応じた空き家対策を講じてきました。しかし、条例レベルでは対応が困難な問題も多かったので、2014年11月に空家等対策推進特別措置法案が成立しました。

市町村の役割

空家等対策の推進に関する特別措置法では市町村の役割を決めました。空き家というのは個人の所有する不動産の問題なのだから、市町村では何も対策を講じないといった言い訳を続けていくと、空き家問題は解決しません。ですから、住民に一番身近な存在である市町村に役割を持たせて、地域の空き家問題に率先して取り組んでもらおうとしたのです。
市町村の役割として定められたのは次のことです。

  • 空家等対策計画を作成
  • 協議会の設置
  • 空家等の所在及び所有者等の調査
  • 空家等に関するデータベースの整備
  • 所有者等に対する情報の提供、助言等
  • 空家等及びその跡地の活用等
  • 特定空家等に対する措置
  • 税制上の措置

そもそも空家等とは?

空家等対策推進特別措置法によれば、「空家等」とは、居住その他の使用がなされていない状態が概ね1年以上に亘って継続していることとされています。例えば親が亡くなった後、親の家には誰も住んでいないけれど、物置や倉庫として子どもが利用を続けているのであれば、空家等に該当しません。しかし、仏壇や位牌を残してあるから家を処分する気はないが、長期間誰も出入りはしていないということであれば、空家等に該当します。

問題となる特定空家等とは?

空家等対策推進特別措置法では、空家等の中でも、特に状態の酷いものを特定空家等と呼んでいます。これはどのような状態を指すのでしょうか?

そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態
  • 部材の破損や不同沈下等で建物に著しい傾斜がある
  • 基礎と土台に大きなずれが生じている
  • 擁壁が老朽化、表面に水がしみ出し、ひび割れが発生
そのまま放置すれば著しく衛生上有害となるおそれのある状態
  • 吹付け石綿が飛散し暴露する可能性が高い
  • 浄化槽の放置、汚物の流出、臭気の発生
  • ごみの放置や不法投棄にによる臭気の発生、ネズミ・蠅・蚊の発生
適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態
  • 汚物や落書きで外見上大きく傷んだり汚れたりしたまま放置されている
  • 多数の窓ガラスが割れたまま放置されている
  • 敷地内にゴミが散乱山積みしたまま放置されている
  • 立木が建物の全面を覆う程度まで繁茂している
  • 地域で定めた景観保全に係るルールに著しく適合しない
その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態
  • 立木が腐り、倒壊、枝折れが生じて近隣の道路や家屋の敷地に枝が大量に散らばっている
  • 門扉が施錠されていない、窓ガラスが割れている等で不特定の者が容易に進入できる状態で放置されている
  • シロアリが大量発生し近隣の家屋に飛来し地域住民の生活環境に悪影響を及ぼす恐れがある

上記のような状態を指しています。
そのような恐れがあれば、特定空家等として、市町村で対応が可能です。

地域ごとに特定空家等の基準は違う?

特定空家等にあたるか否かは、周辺の建築物や通行人に与える悪影響の有無、その悪影響の程度が社会通念上許容される範囲にとどまるか否か、そしてその結果もたらされる危険について切迫性が高いか否かを、適宜判断することになります。つまり個々の特定空家等の状態と地域の実情に応じて、緊急性、必要性が異なるであろうと言うことです。大きな敷地の真ん中に、特定空家等がぽつんと建っていてもあまり近隣に危険は及ばないかも知れません。同様の事案でも、台風などの自然災害が頻繁に起こる地域であれば、結論は違います。また建物が近接する都市部では、特定空家等として処理する必要性は高まります。

所有者の責任

空家等対策推進特別措置法では、空家等所有者の責任を明記しました。本来、所有者であれば、自由に管理できるはずですが、空き家の問題が深刻化したので所有者に任せていたのでは現状を変えることができません。法律で、空家等を管理するには周辺の生活環境に悪影響を及ぼさないように、適切に管理をしましょうということを、明確に規定したのです。空家等所有者が亡くなった場合には、相続人全員が管理責任を負います。

空家等所有者の調査

空家等対策推進特別措置法により、市町村による空家等所有者の調査はしやすくなりました。不動産登記簿情報、住民票や戸籍の他に、固定資産税情報、ガス・電気事業者からの情報、他の地方自治体への照会等ができるようになったからです。空家等所有者情報は空家等情報としてデータベース化して、不動産の管理・活用を促すために使われます。

特定空家等に対する処分

特定空家等があれば、所有者に適切な管理を促す必要があります。その結果、対策が取られないとなれば、厳しい処分を課すことになります。
下記の順番で処理されていきますので、市町村から連絡があった場合は早めに対処をしてください。

  1. 助言・指導
  2. 勧告
  3. 命令
  4. 代執行

よく「固定資産税が最大6倍に!」と言われますが、それは2の勧告を放置したときです。そのような土地にまで住宅用地特例を適用する意味はないので、勧告がなされた翌年の1月1日に状況が変わらなければ、特例が適用されなくなります。
また、3の命令に反すれば、50万円以下の過料に処せられます。
4の代執行は、所有者の代わりに市町村が特定空家等を撤去するなどして、費用は所有者から徴収することを意味します。

特定空家等がもたらす損害

下記の公益財団法人日本住宅総合センターの試算を見ると、空き家の放置は、非常に高額な損害を発生させる危険が在ることが分かります。

  • 外壁材が落下し通行人の男の子が死亡した場合の賠償額は5630万円
  • 倒壊して隣接家屋が全壊し、夫婦と女の子が死亡した場合の賠償額は2億860万円
  • 空き家が原因で隣家に白アリ、ネズミの被害が発生した場合は23.8万円

空家は放置するのではなく、具体的に、活用方法を検討することが大切です。活用方法に困ったときは、市町村の空家担当部署や不動産業者に相談されることをお勧めします。活用を考えるのが面倒であれば、売却を検討しても良いかもしれません。

空き家についてご質問ご相談等あれば、当事務所のセミナーにお越しください。
ご参加お待ちしております。