空家と民事信託
寺島司法書士事務所 司法書士 寺島優子
空き家問題の深刻化
空家対策特別措置法が約3年前に施行されましたが、下記の空家発生原因を見ても分かるように、空家の問題が深刻化するのは、まさにこれからです。
- 所有者の高齢化、管理能力の低下
- 相続で権利関係が複雑化
- 後継者不在
- 維持費用(税金、管理費、処分費)
この中で、相続が発生して空家の権利関係が複雑化した、そもそも後継者がいないといったような、既に手が付けられない程深刻化した問題を解決することも大切ですが、今まさに増加している「所有者の認知症による管理不全」の問題に対し、何らかの予防策を考えていくことはもっと大切です。
2024年には、人口の3割が65歳以上の高齢者となります。不動産所有者の高齢化によって、判断力が低下すると、不動産の管理が困難になります。
施設に入所した後、自宅の管理に手が回らない高齢者もいますし、法定後見人がついたために、手放したい不動産を売却できなくなることもあります(自宅売却には裁判所の許可が必要とされるから)。また、判断力の低下前に、空家を改築して付加価値を高める計画を立てていたけれども、判断力が低下することまでを見越しておらず、法定後見人をつけないと財産を動かせない事態となり、計画を実現できなくなることもありうるでしょう。
それでは、そもそも、どのような対策をすれば良いのでしょうか?
対策:2つの方法
①任意後見契約
空家所有者の判断力の低下が起こる前に、空家の管理方法や、自分の代わりに空家等財産全般の管理を行う人(任意後見人)を決めておき、任意後見人に、判断力低下後の財産の管理を任せることが考えられます。法定後見人と違って、任意後見人であれば、契約した相手がほぼ確実に後見人に就任できる上、財産管理方法の指定もできるので、空家の管理が滞ることがありません。任せたい子ども等がいるのであれば、任意後見契約を交わしておいてください。
なお、空家所有者の判断力が低下した後には、財産管理だけでなく、介護契約や入院手続など身の回りの様々な契約が発生しますが、こうしたことは後見人でないと対処できません。下記の民事信託では財産の管理、処分、承継ができますが、それだけでは、判断力の低下した方の生活全般には対応できないのです。また、信託した財産以外の財産についても、後見人でなければ動かせません。例えば、現行では、年金は判断力の低下した方の個人口座にしか振り込まれません。民事信託を利用しても、受託者は、委託者個人の口座を管理できるわけではありません。
②民事信託
任意後見契約と同じく、空家所有者(委託者)の判断力の低下が起こる前に、財産の管理を任せられる子ども等に財産を信託しておく方法があります。空家を建替えたい、相続税対策をしたい等の案はあるけれども、具体的な手続は子どもに一切を任せたいという場合、民事信託では、信託財産の所有名義を契約時に委託者から受託者である子ども等(信託財産を託される側の者)に移しますので、その後の複雑な手続の一切は受託者が行います。建替え中に委託者の判断力低下が起こっても、既に不動産は信託されているので、そうした事情に左右されずに、相続税対策を継続できます(信託契約の中で、委託者の判断力の低下後に、委託者が信託の変更権限を行使しないような手当てを行っておきます)。建替えには自己資金が足りない場合、融資銀行との交渉は受託者が行います。空家は収益物件に変えられ、そこから得た収益は受益者に渡されます。信託設定時に、収益は委託者であるもともとの所有者に渡すと決めておけば、委託者が判断力低下後、施設に入所したとしても、その費用に充てることができます。
民事信託の場合、信託財産の名義は受託者に変わるので、子どもである受託者は、委託者の代理人として信託財産を管理・運用する訳ではなく、所有者として、(信託の目的の範囲内で)信託財産の管理・運用・処分を行うのです。
空き家の活用計画を進めているうちに、こうした信託の手続をしないまま、空家所有者の判断力が低下すれば、計画は中断するしかなくなり、計画に関わった者に迷惑をかけてしまいますし、判断力低下後には計画していた相続税対策は一切できなくなります。対策をするのであれば、時間に余裕を持って行う必要があります。
さらに、委託者兼受益者に相続が発生すれば、収益物件から利益を受ける権利(受益権)を次に誰に渡すか、信託設定時に決めておくことで、遺産分割協議を経なくとも、信託財産の承継先を指定できます。空家問題を起こす原因のもう一つ「承継者の不在」にも対応できるのです。この時、遺産分割協議をせずとも財産を承継させることは、実は大きなメリットがあります。空家所有者の判断力が低下する恐れがあるケースでは、その配偶者も(同年代であれば)、判断力低下の恐れがあることになります。せっかく空家所有者の財産について対策を講じておいても、その所有者(委託者兼受益者)の死後に遺産分割協議が必要となると、相続人の中に遺産分割協議するのに必要な判断力がない者が居れば、その者のために法定後見人を立てないと、協議ができなくなります。受益権を次に誰が承継するかを決めておくことは、財産所有者亡き後の、配偶者、支えが必要な障害がある子どもを守る手段となるのです。
後見制度は、裁判所が関与することが前提となっていますが、民事信託の場合は、家族間で信じて託す仕組みなので、原則、裁判所の関与はありません。
他にも、民事信託には、受益者を長期にわたって保護する機能、委託者が死亡してもその意思(信託の目的)が信託終了まで反映される機能、委託者や受託者の倒産があっても信託財産が守られる機能などがあります。
空家所有者の判断力の低下が起こる前に、空家の管理方法や、自分の代わりに空家等財産全般の管理を行う人(任意後見人)を決めておき、任意後見人に、判断力低下後の財産の管理を任せることが考えられます。法定後見人と違って、任意後見人であれば、契約した相手がほぼ確実に後見人に就任できる上、財産管理方法の指定もできるので、空家の管理が滞ることがありません。任せたい子ども等がいるのであれば、任意後見契約を交わしておいてください。
なお、空家所有者の判断力が低下した後には、財産管理だけでなく、介護契約や入院手続など身の回りの様々な契約が発生しますが、こうしたことは後見人でないと対処できません。下記の民事信託では財産の管理、処分、承継ができますが、それだけでは、判断力の低下した方の生活全般には対応できないのです。また、信託した財産以外の財産についても、後見人でなければ動かせません。例えば、現行では、年金は判断力の低下した方の個人口座にしか振り込まれません。民事信託を利用しても、受託者は、委託者個人の口座を管理できるわけではありません。
②民事信託
任意後見契約と同じく、空家所有者(委託者)の判断力の低下が起こる前に、財産の管理を任せられる子ども等に財産を信託しておく方法があります。空家を建替えたい、相続税対策をしたい等の案はあるけれども、具体的な手続は子どもに一切を任せたいという場合、民事信託では、信託財産の所有名義を契約時に委託者から受託者である子ども等(信託財産を託される側の者)に移しますので、その後の複雑な手続の一切は受託者が行います。建替え中に委託者の判断力低下が起こっても、既に不動産は信託されているので、そうした事情に左右されずに、相続税対策を継続できます(信託契約の中で、委託者の判断力の低下後に、委託者が信託の変更権限を行使しないような手当てを行っておきます)。建替えには自己資金が足りない場合、融資銀行との交渉は受託者が行います。空家は収益物件に変えられ、そこから得た収益は受益者に渡されます。信託設定時に、収益は委託者であるもともとの所有者に渡すと決めておけば、委託者が判断力低下後、施設に入所したとしても、その費用に充てることができます。
民事信託の場合、信託財産の名義は受託者に変わるので、子どもである受託者は、委託者の代理人として信託財産を管理・運用する訳ではなく、所有者として、(信託の目的の範囲内で)信託財産の管理・運用・処分を行うのです。
空き家の活用計画を進めているうちに、こうした信託の手続をしないまま、空家所有者の判断力が低下すれば、計画は中断するしかなくなり、計画に関わった者に迷惑をかけてしまいますし、判断力低下後には計画していた相続税対策は一切できなくなります。対策をするのであれば、時間に余裕を持って行う必要があります。
さらに、委託者兼受益者に相続が発生すれば、収益物件から利益を受ける権利(受益権)を次に誰に渡すか、信託設定時に決めておくことで、遺産分割協議を経なくとも、信託財産の承継先を指定できます。空家問題を起こす原因のもう一つ「承継者の不在」にも対応できるのです。この時、遺産分割協議をせずとも財産を承継させることは、実は大きなメリットがあります。空家所有者の判断力が低下する恐れがあるケースでは、その配偶者も(同年代であれば)、判断力低下の恐れがあることになります。せっかく空家所有者の財産について対策を講じておいても、その所有者(委託者兼受益者)の死後に遺産分割協議が必要となると、相続人の中に遺産分割協議するのに必要な判断力がない者が居れば、その者のために法定後見人を立てないと、協議ができなくなります。受益権を次に誰が承継するかを決めておくことは、財産所有者亡き後の、配偶者、支えが必要な障害がある子どもを守る手段となるのです。
後見制度は、裁判所が関与することが前提となっていますが、民事信託の場合は、家族間で信じて託す仕組みなので、原則、裁判所の関与はありません。
他にも、民事信託には、受益者を長期にわたって保護する機能、委託者が死亡してもその意思(信託の目的)が信託終了まで反映される機能、委託者や受託者の倒産があっても信託財産が守られる機能などがあります。