おひとりさまの葬儀

寺島司法書士事務所 司法書士 寺島優子

おひとりさまの葬儀はどうなる?!

人が亡くなると、各種機関への手続が必要です(死亡届、年金受給停止、後期高齢者医療資格喪失届、国民健康保険資格喪失届、介護保険資格喪失届、雇用保険受給資格者証の返還、所得税・相続税の申告、国民年金死亡一時金の請求、高額医療費の死後申請等)。医療機関や介護施設で亡くなったのであれば、そこで発生した債務の支払いや遺品の回収も行わねばなりません。そして火葬、埋葬、供養も必要となります。
こうした行為は、家族が居れば滞りなく行われるものです。しかし近年、核家族化により、おひとりさまの高齢者が増加しています。おひとりさまの高齢者には、こうした死後の事務処理を行う者が居ないことが少なくありません。死後の事務処理を行う者がいなければ、施設や医療機関で、受入時に難色を示すことがあります。

そもそも身元引受人は必要か?

施設入所する際には、身元引受人の選任を要求されます。施設が身元引受人を要求するのは、緊急時の問合先の確保、及び退去時の支払の保証や、遺体の引取り、残置物撤去の問題などで困ることがないようにするためです。しかし無縁化が叫ばれて久しい現在、身元引受人がいないと入所できないとなれば、おひとりさま高齢者には酷な話です。
この点、公共性、公益性の高い特養・老健などの施設では、正当な理由がなければサービスの提供を拒めないことになっています。おひとりさま高齢者に身元引受人が居ないのは致し方のないことなので、それだけの理由でサービスの提供を拒むことは間違っているという訳です。
有料老人ホームでは、入所できない施設が存在します。そこで、入所のために任意後見人をつけたり、保証会社を利用することがあります。
ただし、保証会社の利用はよく検討する必要があります。例えば、おひとりさま高齢者への身元保証事業を展開していた日本ライフ協会は、平成28年に、集めた預託金を他社への融資に回したことで是正勧告を受け、その後破産しました。のちに協会の元役員3名は出資法違反で逮捕されたとの報道もありました。
身元保証の必要性は、施設や医療機関でよく相談してください。一人でうまく相談できないのであれば、地元の社会福祉協議会や役所の地域包括支援センターに手助けしてもらうと良いです。

身元引受人がいない:医療について決めておく

身元引受人を要求される理由としてあげたのが、①緊急時の対応②退去時の支払の確保③遺体の引取④残置物の回収でした。①は急変して医療行為が必要になった時、どのように対応すればよいかは本人にしか決められない(施設職員が決めることはできない)が、急変時には本人の意思を確認できないから、身元引受人へ対応を確認したいということです。そうであれば、本人の意思決定が先になされていれば、その決定内容に則って緊急時に対応すればよいと言えます。こうした事態は誰にでも起こりうるので、医療についての事前指示書(尊厳死の希望があれば、合わせて尊厳死宣言書)を作成しておくことをお勧めします。終末期、半数以上の方が自宅で最期を迎えることを希望しています。しかし、実際には、病院で最期を迎える人の割合が8割です。おひとりさまの高齢者であれば猶更、急変時に自分では対応できないので、自宅に留まることは難しいでしょう。その時に、どうような医療を望むのかが医師に明らかにならないと、尊厳ある最期は保障されません。医療について決める権利はあなた自身にあります。決めた内容は心に留めておくのではなく、公正証書にして、いざという時には直ぐに医師に開示できるよう準備しておいてください。公正証書を施設に託せば、①の問題はクリアできるのです。

身元引受人がいない:死後事務委任契約をかわしておく

②退去時の支払の確保、③遺体の引取、④残置物の回収の事前対応については、第三者と死後事務委任契約をかわしておくこと考えられます。死後事務委任契約は、委任者の生前に生じた未払債務の弁済、遺品の引取、葬儀を、委任者の死後、受任者が行うものです。
民法上、委任契約は、当事者の死亡により終了しますが、この死後事務委任契約は当事者の死後にこそ実施されるべき契約で、「委任契約の当事者である委任者と受任者は委任者の死亡によっても委任契約を終了させない旨の合意をすることができる(最判平4.9.22金法1358.55)」という判例を根拠にしています。また、東京高裁平21.12.21判時2073.32では、「委任者は自己の死亡後に契約に従って事務が履行されることを想定して契約を締結しているのであるから、その契約内容が不明確又は実現困難であったり、委任者の地位を承継した者にとって履行負担が過重であるなど契約を履行させることが不合理と認められる特段の事情がない限り、委任者の地位の承継者が委任契約を解除して終了させることを許さない合意をも包含する趣旨と解することが相当である」として、原則、相続人からの解除権の行使を認めていません。
但し、死後の事務を委任する契約の効力が広く認められれば、相続人の利益を侵害する事態が生じ得、現行の法秩序を乱すことにも繋がります。よって、死後事務委任契約は任意後見契約とセットで契約しない限り、効力を生じ得ないとする見解も存在します。
どちらにせよ、年間130万人が亡くなる多死時代が到来し、死後事務委任契約を交わす必要性は高まるばかりです。こうした契約を締結することで、身元引受人が居なくとも、施設入所、医療機関への入院が可能となるのであれば、検討してみる価値はあるのではないでしょうか。

死後事務委任契約の内容

死後事務の内容は、遺体の引取、菩提寺や親族への連絡、葬儀、納骨、埋葬、供養、行政機関への届出、未払金の支払、病院・施設の明渡し、残置物の処分、相続人への財産引継など多岐に亘ります。事務の内容は、人によりどの範囲の事務を依頼するかが異なります。契約時によく検討のうえ、希望を正確に伝えること、また、契約内容に必要な預託金を計算して預けておく必要があります。