シニア起業の注意点
寺島司法書士事務所 司法書士 寺島優子
シニアの起業が活発に?!
定年後も働く意欲溢れるシニアに対し、日本の労働市場はその需要を満たせていない現状があります。定年退職後に持てる能力を活かすべく、起業するシニアが増えているようです。シニアは、持てる人脈や経験を活かして起業できるので、起業時点で、ある程度将来の予測がつきやすいのかも知れません。
厚生労働省で平成28年4月に開始した生涯現役起業支援助成金が、起業したいシニアの気持ちを後押ししているのも、増加の一因なのでしょうか。
厚生労働省で平成28年4月に開始した生涯現役起業支援助成金が、起業したいシニアの気持ちを後押ししているのも、増加の一因なのでしょうか。
経営者のリスク管理
現在、日本の経営者の平均年齢は61歳に達したそうです。次世代に次ぐべきものをお持ちの経営者は、数年かけて、会社をどのように承継させるかといった今後のプランを立て、その間の不測の事態に備えるリスク対応をしています。
それに対して、シニアが起業する場合は、同程度のリスク管理は必要ないのでしょうか?取引相手は、設立した会社の登記簿謄本や定款を見て、将来の経営リスクをどの程度考えている会社なのかを判断し、取引に入るか否かを決定するものです。
シニアが法人化する際に、法人の形態によって、どのような注意点があるのかを考えてみたいと思います。
それに対して、シニアが起業する場合は、同程度のリスク管理は必要ないのでしょうか?取引相手は、設立した会社の登記簿謄本や定款を見て、将来の経営リスクをどの程度考えている会社なのかを判断し、取引に入るか否かを決定するものです。
シニアが法人化する際に、法人の形態によって、どのような注意点があるのかを考えてみたいと思います。
株式会社
一般的に株式会社は、名前もよく知られており、安心感があります。しかし、シニア起業の場合、そう遠くない将来に、相続や認知症による判断力の低下の問題が発生することが予想されますので、設立時から、その対策を講じるか、もしくは、会社のその後を見つつ、順次、対策を講じていく必要があります。
株式会社の取締役の判断力が低下すれば、取引相手は、取引を行うことができません。取締役が成年被後見人もしくは被保佐人となれば、取締役の退任事由となりますし、後見申立をせずとも、会社が取締役を解任することは考えられます。どちらであっても、取締役の判断力低下により業務が滞れば、取引に支障をきたします。そこで、判断力の低下した取締役を別の取締役に変更するための株主総会を開きたくとも、取締役=株主の会社だと、議決権を行使する者の判断力が低下しているので、役員変更決議のための議決権が揃わなければ、新取締役を選べないという事態が起こり得ます。この場合、株主に法定後見人を選任し、後見人が事業に携わってくることになります。しかし、法定後見人が起業者の想いを尊重してくれるかは分かりません。こうした、もしものとき、事業を任せられる相手が居るのであれば、予め、任意後見契約を交わして、任意後見人が株主権等を行使できるようにしておく方法や、株式の信託をする方法を検討しておく必要がありそうです。なお、任意後見人を予め選んでおけば、判断力の低下した取締役に対して、成年被後見人や被保佐人を選任するための申立てをする必要がありませんので、会社との委任契約は終了しません。
株主の判断力低下だけでなく、相続が起こった場合、株式は相続人に承継されますので、会社の存続に相続人の意思が関わってきます。ですから、相続人に対して売渡請求ができる株式にするのか等も検討が必要です。
株式会社の取締役の判断力が低下すれば、取引相手は、取引を行うことができません。取締役が成年被後見人もしくは被保佐人となれば、取締役の退任事由となりますし、後見申立をせずとも、会社が取締役を解任することは考えられます。どちらであっても、取締役の判断力低下により業務が滞れば、取引に支障をきたします。そこで、判断力の低下した取締役を別の取締役に変更するための株主総会を開きたくとも、取締役=株主の会社だと、議決権を行使する者の判断力が低下しているので、役員変更決議のための議決権が揃わなければ、新取締役を選べないという事態が起こり得ます。この場合、株主に法定後見人を選任し、後見人が事業に携わってくることになります。しかし、法定後見人が起業者の想いを尊重してくれるかは分かりません。こうした、もしものとき、事業を任せられる相手が居るのであれば、予め、任意後見契約を交わして、任意後見人が株主権等を行使できるようにしておく方法や、株式の信託をする方法を検討しておく必要がありそうです。なお、任意後見人を予め選んでおけば、判断力の低下した取締役に対して、成年被後見人や被保佐人を選任するための申立てをする必要がありませんので、会社との委任契約は終了しません。
株主の判断力低下だけでなく、相続が起こった場合、株式は相続人に承継されますので、会社の存続に相続人の意思が関わってきます。ですから、相続人に対して売渡請求ができる株式にするのか等も検討が必要です。
合同会社
合同会社では、出資者自らが経営にあたり、業務を執行します。社員の法定退社事由に、「後見開始の審判を受けたこと」及び「死亡」が入っているので、それらの事態が発生すれば、社員の相続人や後見人に業務運営を左右されることなく、他の社員で業務執行を続けることが可能です。但し、認知症発症時点から後見開始の審判を受けるまで、長期に亘ることがあり得ます。その間、業務運営が滞るのは避けなければなりません。そうした点を検討し、合同会社を選ぶのであれば予め、定款でそうした経営上のリスクを補うことが必要です。定款により「後見開始の審判を受けたこと」を法定退社事由から外しておくことも可能です。その場合も、会社の運営が滞らないよう、業務執行できない者に代わって業務を行う者との間で任意後見契約を締結しておかなければ、取引に支障が生じます。
株式会社と比べて、定款には公証人の認証が不要、設立時の登録免許税が安い、役員に任期がないため変更登記の費用負担も発生しないなど、リーズナブルな点がとても魅力です。
詳しくは、コラム「法人化するなら株式会社?合同会社?」をご覧ください。
株式会社と比べて、定款には公証人の認証が不要、設立時の登録免許税が安い、役員に任期がないため変更登記の費用負担も発生しないなど、リーズナブルな点がとても魅力です。
詳しくは、コラム「法人化するなら株式会社?合同会社?」をご覧ください。
一般社団法人
営利目的の株式会社や合同会社と違い、一般社団法人は、非営利な法人です。ですから、社員に対する剰余金の分配は行われません。但し、一般社団法人であっても、収益事業を営むことは可能です。非営利とは、社員に剰余金を分配することを目的としないことを意味するのであって、あらゆる事業を行えますし、役員には報酬や退職金を支払えます。
シニア起業の事業目的が、公益的な内容であれば、一般社団法人を選ぶと良いです。一定の要件を満たせば公益社団法人と認定されることが可能です。公益社団法人となれば官庁の監督下に置かれることにはなりますが、税務面での優遇措置があります。
社団とは、一定の目的をもって結集した人の集まりのことで、構成する人が変動しても、社団は維持されます。同じ志の者が集まって、事業を行おうとしたときに、法人格を持たないままでは、個人の名義で契約、登録するしかありませんが、個人名義で契約、登録すれば、契約者自身の取引と誤解されてしまいます。契約者が途中で抜けたいと思っても、名義を変更するのは手間です。不動産など大きな財産を、事業のために購入したときは、個人名義で登記されると、その個人が勝手に売却してしまうリスクが考えられます。数人が集まって事業を行う場合には、営利目的の事業でなくとも、権利や義務の主体となるための法人格を取得しておくメリットがあるのです。法人格があれば法人名義での取引、登録を行えますので、人の変動に振り回されなくなります。
設立時には2名以上の社員が必要です。社員となる資格は定款で定めることができます。同じ志をもった者のみが加入できる内容にしておけば、その資格を失った時には退社してもらうことが可能となります。
社員には、1人1票の議決権があります。議決権の内容について、定款で異なる定めを設けることは可能です。
社員はいつでも退社することができます。しかし、社員が一人もいなくなれば法人は解散しますので注意が必要です。
社員総会と理事が必須機関で、必要に応じて、理事会、監事、会計監査人を置くことができます。役員は、社員の中から選ぶ必要はありません。
公証人の認証を得て設立登記をすれば、法人になれる点は株式会社と変わりません。公証人の認証費用及び設立登記の登録免許税がかかります。
一般社団法人では、社員の死亡が法定退社事由となっているので、相続紛争に法人が巻き込まれるリスクはありません。更に、業務を執行するのは理事なので、社員が「後見開始の審判を受けたこと」は法定退社事由とはされていませんが、社員総会における決議が滞るリスクを減らすために、社員の認知症発症を退社事由に定めておくことが可能です。
理事等の役員が、成年被後見人若しくは被保佐人になれば、役員の退任事由にあたります。
シニア起業の事業目的が、公益的な内容であれば、一般社団法人を選ぶと良いです。一定の要件を満たせば公益社団法人と認定されることが可能です。公益社団法人となれば官庁の監督下に置かれることにはなりますが、税務面での優遇措置があります。
社団とは、一定の目的をもって結集した人の集まりのことで、構成する人が変動しても、社団は維持されます。同じ志の者が集まって、事業を行おうとしたときに、法人格を持たないままでは、個人の名義で契約、登録するしかありませんが、個人名義で契約、登録すれば、契約者自身の取引と誤解されてしまいます。契約者が途中で抜けたいと思っても、名義を変更するのは手間です。不動産など大きな財産を、事業のために購入したときは、個人名義で登記されると、その個人が勝手に売却してしまうリスクが考えられます。数人が集まって事業を行う場合には、営利目的の事業でなくとも、権利や義務の主体となるための法人格を取得しておくメリットがあるのです。法人格があれば法人名義での取引、登録を行えますので、人の変動に振り回されなくなります。
設立時には2名以上の社員が必要です。社員となる資格は定款で定めることができます。同じ志をもった者のみが加入できる内容にしておけば、その資格を失った時には退社してもらうことが可能となります。
社員には、1人1票の議決権があります。議決権の内容について、定款で異なる定めを設けることは可能です。
社員はいつでも退社することができます。しかし、社員が一人もいなくなれば法人は解散しますので注意が必要です。
社員総会と理事が必須機関で、必要に応じて、理事会、監事、会計監査人を置くことができます。役員は、社員の中から選ぶ必要はありません。
公証人の認証を得て設立登記をすれば、法人になれる点は株式会社と変わりません。公証人の認証費用及び設立登記の登録免許税がかかります。
一般社団法人では、社員の死亡が法定退社事由となっているので、相続紛争に法人が巻き込まれるリスクはありません。更に、業務を執行するのは理事なので、社員が「後見開始の審判を受けたこと」は法定退社事由とはされていませんが、社員総会における決議が滞るリスクを減らすために、社員の認知症発症を退社事由に定めておくことが可能です。
理事等の役員が、成年被後見人若しくは被保佐人になれば、役員の退任事由にあたります。
シニア起業は、経営者であれば当然起こりうるリスクを、早めに検討する必要があると言えます。ぜひ、取引先に信頼される会社を作ってください。