高齢者の徘徊と家族の責任
寺島司法書士事務所 司法書士 寺島優子
警察犬が出動!
近年、高齢者の増加に伴い、徘徊が増え、その捜索活動に警察犬が出動しているというニュースがありました。認知症やその疑いを原因として、毎年1万人を超える方々が行方不明になり、警察犬の臭覚を頼りに捜索活動が行われているそうです(産経新聞より)。犯罪捜査への出動数より多いとは、世相の反映でしょうか。
徘徊SOSネットワーク
各地方自治体の介護保険課では、徘徊SOSのネットワークが用意されるようになっています。徘徊リスクがある方の情報を、家族が役所に登録しておき、行方不明になった時には警察への捜索願が出なくとも、警察と行政が共有し合う情報を元に、捜索を開始します。
また、現在は、正確な位置情報が分かる機械が販売されていますので、そういったものを活用される家族も多いかも知れません。
また、現在は、正確な位置情報が分かる機械が販売されていますので、そういったものを活用される家族も多いかも知れません。
JR東海認知症事故最高裁判決
認知症による徘徊を起因とする有名な事件と言えば、2007年12月に発生したJR東海認知症事故です。徘徊の末、不幸なことに駅構内の線路に立ち入り、列車に衝突して死亡する事故を起こした場合、電車の遅延に伴う賠償責任は、誰が負うべきなのでしょうか。
原則、責任能力のない者の起こした事故であれば、責任能力のない本人には、その責任が負えません。ですから、この事件においては、配偶者、長男が、法定監督義務者として、民法714条の賠償責任を負うかどうかが争われました。
(なお、民法714条によれば、法定監督義務者であっても、その者が監督義務を尽くしたこと、又は、監督義務を怠らなくとも損害が発生したことが証明できれば、責任を負わないともされています。)
結論としてこの判決では、配偶者であるからと言って、当然に法定監督義務者に当たるわけではなく、本件では配偶者自身も要介護認定を受けており、監督義務を引き受けることが可能な状況にあったわけではないと判断されています。更に別居の長男も、事故の直前期に於いて、月に3回程度訪問していたに過ぎない関係で、監督が可能な状況にはなかったとしています。
今後も同様の事件が起きた場合に、家族が法定監督義務者にあたるかどうかは、個々の事案毎に、認知症の高齢者と家族とのかかわりから判断することになります。この事故でも、妻が要介護状態でなく、主体的に介護にかかわれる立場にあった場合には、認知症高齢者の監督義務を引き受けたとみるべき特段の事情があるものされる可能性が高まり、民法714条に基づく賠償責任を負うことになったのかと思います。
認知症による徘徊を防ぐのは非常に難しいことです。しかし、認知症高齢者の引き起こす事故が連日のように報道される昨今、家族にとって、この賠償問題を、真剣に話し合っておく必要がありそうです。
原則、責任能力のない者の起こした事故であれば、責任能力のない本人には、その責任が負えません。ですから、この事件においては、配偶者、長男が、法定監督義務者として、民法714条の賠償責任を負うかどうかが争われました。
(なお、民法714条によれば、法定監督義務者であっても、その者が監督義務を尽くしたこと、又は、監督義務を怠らなくとも損害が発生したことが証明できれば、責任を負わないともされています。)
結論としてこの判決では、配偶者であるからと言って、当然に法定監督義務者に当たるわけではなく、本件では配偶者自身も要介護認定を受けており、監督義務を引き受けることが可能な状況にあったわけではないと判断されています。更に別居の長男も、事故の直前期に於いて、月に3回程度訪問していたに過ぎない関係で、監督が可能な状況にはなかったとしています。
今後も同様の事件が起きた場合に、家族が法定監督義務者にあたるかどうかは、個々の事案毎に、認知症の高齢者と家族とのかかわりから判断することになります。この事故でも、妻が要介護状態でなく、主体的に介護にかかわれる立場にあった場合には、認知症高齢者の監督義務を引き受けたとみるべき特段の事情があるものされる可能性が高まり、民法714条に基づく賠償責任を負うことになったのかと思います。
認知症による徘徊を防ぐのは非常に難しいことです。しかし、認知症高齢者の引き起こす事故が連日のように報道される昨今、家族にとって、この賠償問題を、真剣に話し合っておく必要がありそうです。
親族が後見人になったとき
親族が後見人になった時は、認知症高齢者の監督義務を引き受けたとみるべき特段の事情があるものに該当する可能性が高まります。現に、JR東海認知症事故の第一審では、長男が監督義務者に当たるとされました。また、最高裁の判断は、成年後見の申立をしていれば長男が成年後見人に選任されたろうし、そうであれば監督義務者として責任を負ったであろうことを示唆する内容となっています。
成年後見人に就任した後に、注意を尽くしても同様の事故が起きたとしたら、賠償責任のために、後見人自身の生活が破綻しかねません。(なお、後見人選任の申立てをせずに、認知症高齢者の介護を続ける場合であっても、介護する者の関わり方が、法定監督義務者に該当するとみられる特段の事情があれば、やはり賠償義務の問題が発生します。)
徘徊を完全に阻止しようとすれば、認知症高齢者の自由がなくなります。まして在宅介護であれば、完全に阻止すること事体が難しいとも言えます。
JR東海認知症事故においても、玄関にはチャイム(センサーがついたもの)を設置しており、徘徊を防ぐ手立てはなされていたのです。それでも事故は起こりました。
親族後見人の賠償義務を補填する方法としては、火災保険や自動車保険に個人賠償責任保険の特約をつける方法等、保険の加入をお勧めしています。
成年後見人に就任した後に、注意を尽くしても同様の事故が起きたとしたら、賠償責任のために、後見人自身の生活が破綻しかねません。(なお、後見人選任の申立てをせずに、認知症高齢者の介護を続ける場合であっても、介護する者の関わり方が、法定監督義務者に該当するとみられる特段の事情があれば、やはり賠償義務の問題が発生します。)
徘徊を完全に阻止しようとすれば、認知症高齢者の自由がなくなります。まして在宅介護であれば、完全に阻止すること事体が難しいとも言えます。
JR東海認知症事故においても、玄関にはチャイム(センサーがついたもの)を設置しており、徘徊を防ぐ手立てはなされていたのです。それでも事故は起こりました。
親族後見人の賠償義務を補填する方法としては、火災保険や自動車保険に個人賠償責任保険の特約をつける方法等、保険の加入をお勧めしています。
施設入所の場合
介護施設で感じることは、この賠償問題についての意識の薄さです。民法714条2項では、法定監督義務者に代わって認知症の高齢者を監督するものとして、代理監督者も賠償責任を負うことを規定しています。ですから、同様の事故で介護施設が代理監督者にあたると判断されてしまった場合には、その者が代理監督義務を尽くしたこと、又は、代理監督義務を怠らなくとも損害が発生したことが証明できなければ、やはり高額の賠償義務を負う可能性があります。介護施設であれば通常、入所者の出入りには注意を払っていますが、それでも起こるのが徘徊です。事業者用の賠償責任保険の加入を検討されるべきではないかと思います。
成年後見制度についてご質問ご相談等あれば、当事務所のセミナーにお越しください。
ご参加お待ちしております。
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